パン作りに人生を捧げてきた玉木潤さんの歩みは、技術を磨き続ける情熱と、妥協しない姿勢に満ちています。実家での原点から始まり、専門学校、研究所、ホテル、老舗ベーカリーでの経験、そして世界大会への挑戦を経て、宇治・黄檗で「たま木亭」を開くまでの道のりには、職人としての哲学が息づいています。 その背景を知ることで、たま木亭のパンがなぜ多くの人を惹きつけるのかがより鮮明になります。読み進める前に、少しだけ内容をのぞいてみてください。
【この記事のポイント】
- 玉木潤さんがパン職人を志すまでの原点と転機
- 修行時代に培われた技術と仕事観
- たま木亭が一店舗主義を貫く理由
- パン作りに込められたこだわりと哲学
パン職人の玉木潤の経歴を幼少期から修行時代まで
実家はベーカリータマキ|子ども時代と家業との距離感

玉木潤さんは、京都府宇治市で家族が営む「ベーカリータマキ」のそばで育ちました。店の奥から聞こえるミキサーの音や、焼きたての香りが日常の一部になっていた環境です。 ただ、幼い頃から自然とパン職人を目指していたわけではなく、家業を少し距離を置いて眺める時間も多かったとされています。朝早くから仕込みが始まり、休む間もなく作業が続く姿を見て、パン作りの世界が決して華やかなだけではないことを理解しながら成長していきました。
家の手伝いをする中で、粉の扱い方や生地の変化を目にする機会は多く、パン作りの工程が生活の一部として自然に染み込んでいきます。とはいえ、家族が忙しく働く姿を見ていたため、同じ道に進むことへの迷いもあったと考えられます。 それでも、日々の暮らしの中でパンが身近にあり続けたことは、後に進路を選ぶ際の大きな土台になりました。家業の厳しさを知りつつも、パンが人の生活に寄り添う存在であることを肌で感じていたことが、玉木さんの価値観を形づくっていきます。
パン作りの現場を幼い頃から見てきた経験は、後に専門学校や修行先で技術を学ぶ際にも役立ち、生地の扱い方や作業の流れを理解する感覚的な基礎になっていきました。家業を通して得た「パンが生活の一部である」という感覚は、のちのたま木亭の店づくりにもつながる重要な原点になっています。
学生時代のアルバイトとパンとの再会エピソード
進路を考え始めた時期、玉木潤さんはステーキ店「あさくま」でアルバイトをしていました。ホール業務や調理補助といった一般的な仕事に加えて、店内で提供するパンの製造にも関わる機会がありました。 この経験が、幼い頃から身近にあったパンと改めて向き合うきっかけになります。
生地をこねる感触や、発酵によってふくらんでいく様子を間近で見る時間が増えるにつれ、パン作りの奥深さに惹かれていきます。焼き上がった瞬間に広がる香りや、温度や湿度によって生地の状態が変わる繊細さに触れることで、パン作りが単なる作業ではなく、日々の変化を読み取る仕事であることを実感していきました。
家業で見てきたパン作りとは違い、アルバイト先での経験は「自分の意思でパンに向き合う」初めての時間でもありました。家庭の延長ではなく、職業としてのパン作りを意識するようになり、技術を学びたいという思いが芽生えていきます。
このアルバイトでの体験は、進路を決めるうえで大きな転機となり、専門学校へ進む決断へとつながっていきました。パン作りの楽しさと難しさを同時に感じたことで、将来の方向性がより明確になっていきます。
京都製菓技術専門学校から日本パン技術研究所へ進んだ理由
パンの道に進むことを決めた玉木潤さんは、まず京都製菓技術専門学校で基礎を固めていきます。ここでは、パン作りに欠かせない配合の考え方や発酵の仕組み、焼成の工程を一つひとつ丁寧に学び、製パンの基礎技術を体系的に身につけていきました。 また、パンだけでなく菓子全般の知識にも触れることで、素材の扱い方や温度管理の重要性など、幅広い視点から食の世界を理解する土台が築かれていきます。
基礎をしっかりと身につけた後、玉木さんはさらに専門性を高めるため、日本パン技術研究所へ進みます。ここでは、パン生地の性質や製法の違いを科学的に理解するための理論を深く学び、実践と理論を結びつける力を養っていきました。 生地の水分量や温度、発酵の進み具合が仕上がりにどのように影響するのかを細かく分析し、日々の製造に応用できる知識として吸収していきます。
この二つの学びの場で得た経験は、後の修行時代や独立後の店づくりに大きく影響しています。基礎技術を確実に身につけたうえで、理論的な裏付けを持ってパン作りに向き合う姿勢は、玉木さんのパン職人としての軸を形づくる重要なステップになりました。
京都センチュリーホテルのベーカリー部門で学んだこと
京都製菓技術専門学校と日本パン技術研究所で基礎と理論を身につけた玉木潤さんは、卒業後に京都センチュリーホテルのベーカリー部門へ進みます。ホテルのベーカリーは、一般的な街のパン屋とは異なり、求められるパンの種類や量が幅広く、日々の業務には高い正確性とスピードが必要とされます。
朝食ビュッフェ向けの食事パン、宴会やレストランで提供される特別なパン、さらには宿泊客の要望に応じたアイテムなど、多様なニーズに応える環境で働くことで、玉木さんは「安定した品質を保ちながら大量に作る」というホテルならではの技術を身につけていきました。
特に、仕込みから焼成までの段取りを効率よく組み立てる力や、時間管理の重要性を強く意識するようになります。ホテルでは決められた時間に確実に提供することが求められるため、発酵の進み具合を見極めながら作業を調整する判断力が自然と鍛えられていきました。
また、ホテルの現場では複数のスタッフが連携して作業を進めるため、チームワークも欠かせません。役割分担を明確にしながら、互いの作業を補い合うことで、効率的に高品質なパンを提供する体制が整えられていました。こうした環境で働いた経験は、後のたま木亭の運営にもつながる「段取りの良さ」や「現場全体を見渡す視点」を育てる大きな要素になっています。
ホテルでの経験は、玉木さんにとって技術面だけでなく、仕事の進め方やチームで働く姿勢を学ぶ貴重な時間となり、パン職人としての基盤をさらに強固なものにしていきました。
ムッシュf製パン技術訓練塾と仲間たち|安倍竜三氏との出会い

京都センチュリーホテルでの実務経験を積んだ後、玉木潤さんはさらに技術を深めるために、福盛幸一氏が主宰する「ムッシュf製パン技術訓練塾」に参加します。ここは、全国から意欲あるパン職人が集まり、実践的な技術を磨く場として知られています。日々の業務とは異なる環境で、純粋に技術と向き合う時間を持てることが、この塾の大きな特徴です。
訓練塾には、後に「ブーランジェリー パリゴ」を開く安倍竜三氏をはじめ、将来それぞれの地域で活躍する職人たちが集まっていました。同じ志を持つ仲間と共に学ぶことで、技術だけでなく、パン作りに対する姿勢や考え方にも刺激を受ける日々が続きます。 互いの作業を見て学び合い、意見を交わしながら、これまで知らなかった製法や素材の扱い方に触れることで、パン作りの幅が大きく広がっていきました。
この期間は、玉木さんにとって「自分のパンづくりを見つめ直す時間」でもありました。日々の仕事の中では気づきにくい細かな技術の違いや、職人それぞれの工夫に触れることで、自分が目指すパンの方向性がより明確になっていきます。 また、同世代の職人たちが真剣に技術を磨く姿は大きな刺激となり、互いに切磋琢磨する関係がその後のキャリアにも良い影響を与えています。
ムッシュf製パン技術訓練塾での経験は、玉木さんの技術的な成長だけでなく、職人としての視野を広げる大切な時間となり、のちの「たま木亭」のパンづくりにも深くつながっていく重要なステップになりました。
老舗ベーカリー「ドンク」での修行と実力の飛躍
京都での経験を積んだ玉木潤さんは、さらに技術を深めるために全国展開する老舗ベーカリー「ドンク」へ入社します。ドンクは長い歴史を持ち、全国の店舗で同じ品質のパンを提供することが求められる環境です。そこで働くことは、パン職人としての基礎力を徹底的に鍛える場でもありました。
ドンクでは、ハード系のバゲットやカンパーニュ、デニッシュ、惣菜パンなど、多岐にわたるアイテムを扱います。種類ごとに生地の性質や扱い方が異なるため、日々の製造を通して、粉の配合や水分量、発酵時間のわずかな違いが仕上がりにどれほど影響するかを深く理解していきます。 特に、気温や湿度によって生地の状態が変わるため、その日の環境に合わせて微調整を行う判断力が自然と磨かれていきました。
また、ドンクは多くのスタッフが連携して作業を進めるため、効率的な動きや段取りの良さも求められます。大量生産の中でも品質を安定させるためには、作業の順序や時間配分を正確に把握し、チーム全体で同じ方向を向いて動く必要があります。こうした環境で働いた経験は、玉木さんにとって技術面だけでなく、現場全体を見渡す視点を育てる大きな財産となりました。
ドンクでの日々は、パン職人としての実力を大きく飛躍させる時間となり、後の「たま木亭」でのパンづくりに直結する重要な経験となっています。生地の状態を見極める感覚や、安定した品質を保つための工夫は、この時期に培われたものが大きく影響しています。
クープドゥモンド日本代表として4位入賞した背景
ドンクでの修行を重ねる中で、玉木潤さんはパン職人としての技術を大きく伸ばしていきました。その実力が評価され、パンの世界大会として知られる「クープドゥモンド・ド・ラ・ブーランジュリー」に日本代表として参加する機会を得ます。クープドゥモンドは、世界各国の職人がチームを組み、技術・創造性・再現性など多方面から評価される大会で、パン職人にとって大きな挑戦の場です。
大会では、限られた時間の中で複数のパンを仕上げる必要があり、技術の正確さだけでなく、段取りや集中力も問われます。玉木さんはチームの一員として、日頃の経験で培った生地の扱い方や焼成の感覚を最大限に発揮し、安定した仕上がりを目指して作業を進めました。 結果として、日本チームは4位に入賞し、世界の舞台で確かな存在感を示すことになります。
この経験は、玉木さんにとって自身の技術レベルを客観的に知る大きな機会となりました。世界中の職人が生み出すパンに触れることで、素材の使い方や表現の幅広さを実感し、パンづくりに対する視野がさらに広がっていきます。 また、世界基準の技術や考え方に触れたことで、自分が目指すパンの方向性をより明確にし、後の「たま木亭」でのパンづくりにも深く影響を与える転機となりました。
クープドゥモンドでの挑戦は、玉木さんの職人としての自信を支える経験となり、技術だけでなく、パンづくりに向き合う姿勢そのものを強く形づくる重要なステップになっています。
パン職人の玉木潤の経歴から見るたま木亭と現在
2001年宇治で「たま木亭」開業|夫婦二人からのスタート

長年の修行を経て、玉木潤さんは2001年、京都府宇治市・黄檗の地に「たま木亭」を開業します。店を構えた場所は、観光地として知られる宇治中心部から少し離れた住宅街で、落ち着いた環境の中にあります。開店当初の店舗は売場約4坪、工場約10坪という小さなスペースで、夫婦二人で店を切り盛りする形でスタートしました。
限られた広さの中で、仕込みから焼成、陳列、販売までを少人数でこなす必要があり、効率的な動きと段取りが欠かせませんでした。毎日の作業を積み重ねる中で、玉木さんは生地の状態を細かく見極めながら、焼き上がりの質を安定させる工夫を続けていきます。 この頃から、パンの種類を幅広く揃えるスタイルが徐々に形づくられ、ハード系、デニッシュ、惣菜パンなど、多彩なラインナップが店に並ぶようになっていきました。
開業当初は地域の人々に支えられながら、少しずつ評判が広がっていきます。遠方から訪れる人が増えるにつれ、店の前に行列ができる日も珍しくなくなり、宇治の住宅街にありながら全国的に知られる存在へと成長していきました。 夫婦二人で始めた小さな店が、現在のたま木亭のスタイルの原点となり、丁寧な仕込みと確かな技術を大切にする姿勢は、開業当時から変わらず受け継がれています。
京都府宇治市・黄檗という立地と地域とのつながり
たま木亭が店を構える黄檗は、京都府宇治市の中でも落ち着いた住宅街に位置し、観光地として知られる平等院周辺とは異なる、生活の気配が色濃く残る地域です。大通りから少し入った場所にあり、地元の人が日常的に利用する店や学校が並ぶ、穏やかな空気が流れる環境です。 このような土地柄は、たま木亭の「日常に寄り添うパン」という存在感と自然に調和し、地域の暮らしの中に溶け込むように根づいていきました。
開店当初から、近隣の住民が朝の買い物や家族の食卓のために訪れる姿が多く見られ、地域の生活リズムの一部として親しまれてきました。やがて評判が広がるにつれ、遠方から訪れる人も増え、開店前から行列ができる日も珍しくなくなります。 地元の常連客と、全国から訪れるパン好きが同じ店内でパンを選ぶ光景は、たま木亭ならではの特徴となり、地域と外からの来訪者が自然に交わる場としての役割も果たしています。
黄檗という立地は、観光地の喧騒から少し離れた静けさがありながら、アクセスが良く、訪れやすい環境でもあります。住宅街の中にあるからこそ、店の前に並ぶ人々の姿が地域の風景の一部となり、地元の人々にとっても誇りとして語られる存在になっています。 こうした地域とのつながりは、たま木亭が長く愛され続ける理由のひとつであり、店の空気感やパンづくりの姿勢にも影響を与えています。
カレーパンやバゲットなど多彩な品揃えについて
たま木亭の店内には、カレーパンやバゲットを中心に、ハード系、ソフト系、惣菜パン、デニッシュなど、多い日で70〜80種類ものパンが並びます。種類の豊富さは、訪れるたびに違う楽しみ方ができる理由のひとつで、定番商品と新作が自然に混ざり合う構成になっています。
カレーパンは、外側の生地の食感と中の具材の調和が印象に残りやすく、香ばしさと旨みのバランスが心に残るという声が多く聞かれます。揚げたてのような軽やかな食感と、しっかりとした味わいのカレーが一体になり、食べ進めるほどに満足感が高まる仕上がりです。
バゲットは、湯ごね製法を取り入れていることもあり、外側のパリッとした焼き上がりと、内側のしっとりとした食感の対比が特徴です。香りの立ち方が豊かで、噛むほどに小麦の風味が広がるため、食事に合わせても単体でも楽しめる存在になっています。
また、惣菜パンやデニッシュなどのアイテムも充実しており、季節の素材を取り入れた商品が並ぶこともあります。幅広い種類が揃っているため、家族それぞれが好みのパンを選べるという点も、たま木亭が多くの人に親しまれている理由のひとつです。 訪れるたびに新しい発見があるラインナップは、日常の食卓にも特別な日の食事にも寄り添う存在として、多くの人に支持されています。
湯ごね製法のバゲットに込めたこだわりと生地の管理
たま木亭のバゲットは、湯ごね製法を取り入れている点が特徴です。湯ごねは、小麦粉の一部に熱湯を加えてこねることで、デンプンが糊化し、生地の保水性が高まります。この工程によって、外側は香ばしく、中はしっとりとした食感が生まれ、噛むほどに小麦の風味が広がる仕上がりになります。
湯ごね製法は一見シンプルに見えますが、温度管理や混ぜ方の加減が難しく、職人の経験が大きく影響します。生地が熱を持ちすぎると発酵が進みやすくなり、逆に温度が低いと湯ごねの効果が十分に出ません。玉木潤さんは、この微妙な温度の変化を手の感覚で確かめながら、生地の状態を整えていきます。
さらに、玉木さんが重視しているのが、生地の「足」と「腰」のバランスです。 「足」は発酵の進み具合、「腰」は生地の弾力を指し、この二つのバランスが崩れると、焼き上がりの食感や香りに影響が出ます。気温や湿度が日によって変わるため、発酵時間や水分量を細かく調整しながら、その日の最適な状態を見極める必要があります。
焼成の段階でも、オーブンの熱の入り方を見ながら、表面の色づきやクープ(切れ目)の開き方を確認し、香ばしさと軽さの両立を目指します。こうした細やかな管理の積み重ねが、たま木亭のバゲットの安定した仕上がりにつながっています。
湯ごね製法の特徴を最大限に引き出しながら、毎日変化する生地と向き合い続ける姿勢は、たま木亭のパンづくりを象徴する部分でもあり、訪れる人がバゲットを手に取る理由のひとつになっています。
すべての生地を自ら仕込むスタイルと分業への考え方

たま木亭では、創業当初から長く、玉木潤さん自身がすべての生地を仕込むスタイルを続けてきました。生地に触れたときの温度や弾力、香りの変化を自分の手で確かめることで、その日の状態を細かく読み取り、配合や発酵時間を調整していきます。気温や湿度がわずかに変わるだけでも生地の反応は異なるため、毎日の仕込みは同じ作業の繰り返しではなく、常に観察と判断が求められる工程です。
生地づくりを自ら担う理由には、パンの仕上がりを左右する最も重要な工程を自分の感覚で管理したいという思いがあります。生地の状態を見極める力は、長年の経験によって培われたものであり、機械やマニュアルだけでは再現できない繊細な判断が必要になります。 そのため、スタッフとの分業が進んだ現在でも、仕込みの工程だけは玉木さんが中心となって行い、店全体の品質を安定させる軸として大切にされています。
一方で、成形や焼成、販売などの工程はスタッフと協力しながら進められており、効率的な分業体制も整えられています。スタッフがそれぞれの持ち場で力を発揮できるようにしつつ、最も重要な部分は自らの手で守るという姿勢が、たま木亭のパンづくりの根底にあります。 このバランスによって、職人としてのこだわりと、店としての安定した運営が両立されており、訪れる人がいつでも変わらない味わいを楽しめる環境が保たれています。
店舗拡大や催事出店をあえて行わない方針について
たま木亭は、全国的な人気を得た現在でも、店舗を増やしたり、百貨店の催事に積極的に出店したりする道を選んでいません。宇治・黄檗の一店舗に集中することで、日々のパンの状態や店全体の空気感を、自分たちの目が届く範囲で保つことを大切にしている姿勢がうかがえます。 パン作りは、気温や湿度、生地の状態によって微妙に仕上がりが変わるため、品質を安定させるには細やかな管理が欠かせません。複数店舗を展開すると、工程の統一やスタッフ教育に時間が必要となり、玉木潤さんが大切にしてきた「自分の感覚で生地を見極める」スタイルを維持することが難しくなります。こうした理由から、一店舗に集中する形が自然に選ばれてきたと考えられます。
また、催事出店を控えているのも、パンの状態を最良の形で届けるためです。移動や設備の違いによって焼き上がりが変わる可能性があるため、普段と同じ環境で作ることを優先し、店での提供に力を注いでいます。 遠方から訪れる人にとっては足を運ぶ手間がありますが、その分、店に着いたときの期待感や、パンを選ぶ時間の特別さが強く印象に残るという声も多くあります。住宅街の一角にある店にたどり着くまでの道のりも含めて、たま木亭を訪れる体験そのものが記憶に残るものになっています。
一店舗に集中し、日々の営業に丁寧に向き合う姿勢は、たま木亭のパンづくりの根底にある考え方と深く結びついています。品質を守りながら、訪れる人にとって特別な時間を提供するための選択が、現在のスタイルにつながっています。
宇治の老舗「中村藤吉本店」のほうじ茶を使ったパン開発
宇治は日本有数のお茶の産地として知られ、たま木亭でもその土地ならではの素材を取り入れたパンづくりが行われています。その代表的な例が、老舗「中村藤吉本店」のほうじ茶を使ったパンです。 玉木潤さんが中村藤吉本店のほうじ茶ゼリイを味わった際、その香りの豊かさと深みのある風味に強く惹かれたことが、パンへの応用を考えるきっかけになりました。
ほうじ茶は香ばしさが特徴ですが、パン生地に混ぜ込むと香りが弱くなりやすく、バランスを取るのが難しい素材です。玉木さんは、生地に練り込む量や抽出方法、合わせるクリームの甘さなどを細かく調整しながら、試作を重ねていきました。 ほうじ茶の香りがふわりと立ち上がりつつ、パンとしての食感や味わいを損なわない仕上がりを目指し、何度も配合を見直す工程が続きます。
完成したパンは、ほうじ茶の香ばしさと生地の旨みが自然に調和し、宇治らしさを感じられる一品として親しまれています。お茶の名産地である宇治の素材を取り入れることで、地域とのつながりがより深まり、たま木亭のラインナップの中でも特に土地の個性が表れた商品となっています。
現在の働き方と完全週休二日制への移行、その狙い
たま木亭では、長く月曜・火曜を定休日とする週休二日制を続けてきましたが、営業体制を見直す中で、水曜日を仕込み専用の日として確保し、木曜から日曜までを営業日に集中させる現在の完全週休二日制へと移行しています。 この変更には、パンの品質を安定させるためのリズムを整えるという明確な目的があります。
パン作りは、仕込みの段階で生地の状態を丁寧に整えることが欠かせず、気温や湿度の変化に合わせた調整が必要になります。営業日が続くと仕込みの時間が十分に確保できないこともあり、品質を維持するためには、仕込みに集中できる日を設けることが重要になります。水曜日を仕込み専用日にすることで、木曜からの営業に向けて生地を最良の状態に整えられるようになり、パンの仕上がりにも安定感が生まれています。
また、完全週休二日制への移行は、スタッフの働きやすさにもつながっています。パン作りは早朝からの作業が続くため、体力的な負担が大きく、長く働き続けるためには休息の確保が欠かせません。定休日を明確にし、無理のない勤務サイクルを整えることで、スタッフが安心して働ける環境がつくられています。
営業日を絞ることで来店できる日が限られるものの、その分、訪れたときの特別感が増し、パンを選ぶ時間がより印象深いものになるという声もあります。品質を守りながら、働く人と訪れる人の双方にとって心地よい店づくりを目指す姿勢が、この働き方の選択に表れています。
パン職人の玉木潤の経歴から学べる仕事観
- 実家のパン屋で日常的に生地と向き合う環境で育つ
- 学生時代のアルバイトでパン作りの魅力を再確認する
- 専門学校で基礎技術を体系的に身につける
- 研究所で生地の性質を科学的に理解する力を養う
- ホテル勤務で大量生産と品質維持の両立を学ぶ
- 老舗ベーカリーで幅広い製法と段取り力を磨く
- 世界大会出場で世界基準の技術と視野を得る
- 開業後も生地の仕込みを自ら行い品質を守る
- 湯ごね製法を使い独自の食感と風味を追求する
- 一店舗主義で目の届く範囲の店づくりを貫く
- 地域の素材を取り入れ土地とのつながりを深める
- 働き方を見直しスタッフの負担軽減にも配慮する
- 日々の観察と微調整を重ねる姿勢を大切にする
- 技術と感覚の両面からパン作りを探求し続ける
- ものづくり全般に通じる誠実な姿勢が評価される





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