岩手の静かな街で育ち、子ども劇団の舞台に立った3歳の記憶。新体操でインターハイに出場するほどの身体表現力。そして、京都の芸術大学で演技を学び、映画監督・林海象との出会いを経て、映像の世界へと歩みを進めた土村芳。彼女の演技には、派手さではなく、静かに深く沁み入る力があります。
本記事では、土村芳がどのようにして演技の道を選び、舞台と映像の両面で確かな存在感を築いてきたのか、その歩みを丁寧に辿ります。朝ドラ『べっぴんさん』での繊細な演技から、カンヌに選ばれた『本気のしるし』、Netflix『新聞記者』での緊張感ある表現まで——彼女の演技の原点と広がりを、静かな熱量とともにご紹介します。
【この記事のポイント】
- 土村芳の幼少期から芸術大学時代までの歩み
- 映画・舞台・ドラマでの代表的な出演作と役柄
- 初主演映画や国際評価を受けた作品での演技
- 土村芳が演技者として築いてきた表現の深さ
土村芳の経歴と演技への原点を知る
岩手県盛岡市で育った幼少期
土村芳は1990年12月11日に岩手県盛岡市で生まれました。東北地方の中でも自然と文化が調和した盛岡市は、四季の移ろいが美しく、静かな街並みの中に人々の温かさが息づいています。そんな環境の中で育った土村は、幼い頃から表現することに親しんでいました。
3歳の頃には姉とともに地元の子ども劇団「盛岡子供劇団CATSきゃあ」に所属し、舞台に立つ経験を積み始めます。劇団では小学生を中心に活動が行われており、厳しい稽古の中で芝居の楽しさや仲間との絆を育んでいきました。小学4年生の時には、地元で撮影されたNHKの正月ドラマに子役として出演する機会もあり、地域に根ざした活動の中で演技に触れる時間が続いていました。
一方で、小学2年生から始めた新体操にも打ち込み、身体表現の面でも豊かな経験を重ねていきます。運動能力の高さはその後の進路にも影響を与え、高校ではスポーツ推薦で進学するほどの実力を持っていました。こうした幼少期の体験は、後に女優としての土台となる感性や身体性を育てる重要な時間となっています。
子ども劇団での初舞台経験

土村芳は3歳の頃から姉とともに、地元盛岡市の子ども劇団「盛岡子供劇団CATSきゃあ」に所属していました。この劇団は小学生を中心に活動しており、地域の文化活動の一環として、子どもたちが舞台に立つ機会を提供していました。演技は習い事のひとつとして始めたものでしたが、舞台に立つことの高揚感や、仲間と一緒に作品をつくり上げる楽しさが、幼いながらも心に残る体験となっていきます。
劇団では、台詞を覚えたり、動きを合わせたりといった稽古を通じて、表現することの面白さを学んでいきました。舞台の本番では、観客の前で演じる緊張感と達成感が入り混じり、演技に対する関心が自然と育まれていきます。この頃の経験は、後に女優としての道を選ぶ際の原点となる記憶として、本人の中にしっかりと残っていたようです。
子ども劇団はその後解散となり、演技からは一時的に離れることになりますが、舞台に立った記憶は消えることなく、進路を考える時期に再び心の中に浮かび上がることになります。幼少期に体験した舞台の空気や、観客の反応を肌で感じた時間が、演技という表現への関心を深めるきっかけとなりました。
新体操でインターハイ出場の実績
土村芳は小学2年生の頃から新体操に取り組み始め、日々の練習を重ねながら技術を磨いていきました。新体操は柔軟性や表現力に加えて、音楽との調和や集中力も求められる競技であり、彼女はそのすべてに真摯に向き合っていました。
中学卒業後は、盛岡白百合学園高等学校にスポーツ推薦で進学します。この高校は新体操部の活動が盛んで、県内外の大会でも実績を残していることで知られています。土村はその中でも頭角を現し、高校在学中には全国高等学校総合体育大会、いわゆるインターハイに出場するまでの実力を身につけました。
競技生活では、演技の完成度を高めるために日々のトレーニングを欠かさず、仲間とともに団体演技にも取り組んでいました。新体操で培った身体のしなやかさや表現力は、後に女優としての活動においても活かされることになります。役柄に応じた動きや所作を自然に表現できるのは、こうした競技経験が土台にあるからです。
高校卒業後の進路を考える中で、体育大学への進学や体育教師という道も視野に入れていましたが、最終的には演技の道を選び、京都造形芸術大学映画学科俳優コースへと進学します。新体操に打ち込んだ日々は、彼女の中で確かな自信と集中力を育てる時間となり、表現者としての基盤を築く大切な経験となりました。
芸術大学で演技を本格的に学ぶ

高校卒業後、土村芳は京都造形芸術大学映画学科俳優コースに進学しました。進路を選ぶ際には新体操を続ける道や体育教師になる選択肢もありましたが、幼少期に舞台に立った記憶が心に残っており、演技への思いが再び強くなったことがきっかけとなりました。
大学では演技を専門的に学びながら、舞台や自主制作映画に積極的に参加していきます。授業では演技理論や身体表現の技術を学び、実践の場として学生主導の作品づくりにも取り組みました。在学中には劇団に所属し、舞台作品に出演する機会も得ており、演技の経験を重ねながら表現の幅を広げていきました。
同じ学科には、すでに外部の舞台で活躍していた先輩も在籍しており、刺激を受けながら自らの演技を磨いていきます。大学の教授でもある映画監督・林海象に見出され、舞台『花ちりぬ』で主演に抜擢されたことは、演技者としての転機となりました。その後も映画『カミハテ商店』や『彌勒 MIROKU』などに出演し、学内外での活動を通じて実力を培っていきます。
大学卒業後はヒラタオフィスに所属し、テレビドラマや映画、舞台など幅広いジャンルで本格的な女優活動を開始します。学生時代に培った経験と学びが、現在の演技にしっかりと根を張っています。
映画監督・林海象との出会い
土村芳が京都造形芸術大学に在学していた頃、映画監督の林海象との出会いが大きな転機となりました。林海象は『私立探偵 濱マイク』シリーズなどで知られる映画監督であり、同大学で教授も務めていました。土村はその指導のもと、演技力を見出され、劇団姫オペラの舞台『花ちりぬ』で主演に抜擢されます。
この舞台は2011年に上演されたもので、土村は主人公・あきら役を演じました。学生ながらも主演という大役を任され、舞台上での存在感と表現力が高く評価されることになります。演出や演技の細部にまでこだわる現場での経験は、彼女にとって大きな学びとなり、演技者としての意識をさらに深めるきっかけとなりました。
その後、林海象が監督を務めた映画『彌勒 MIROKU』でも再び主演に起用され、永瀬正敏とともに物語の中心を担います。この作品は大学の映画学科が制作する「北白川派」プロジェクトの一環として公開されたもので、土村にとって映画初主演となりました。舞台から映画へと活動の場を広げる中で、林海象との出会いは、演技の可能性を広げる重要な一歩となっています。
初主演映画『彌勒 MIROKU』の背景

土村芳が映画初主演を果たした『彌勒 MIROKU』は、2013年に公開された作品です。原作は稲垣足穂の自伝的小説「弥勒」で、映画監督・林海象が長年温めてきた企画として実現しました。物語は、文学に夢を抱いた少年が、やがて酒に溺れる売れない作家となり、幻想的な存在との対話を通じて自らの内面と向き合っていくという構成で描かれています。
この作品は二部構成となっており、第一部では少年期の主人公・江美留を土村芳が演じ、第二部では青年期を永瀬正敏が演じています。土村は、京都造形芸術大学在学中にこの役に抜擢され、学生ながらも主演という大役を担いました。少年役を女性が演じるという演出は、作品の幻想性や哲学的なテーマを際立たせる要素として機能しています。
撮影は京都を中心に行われ、映画学科の学生約90人がスタッフとして参加するという異例の体制で制作されました。プロの映画スタッフと学生が協力しながら作品を完成させるという試みは、映画制作の新しい形として注目されました。土村はこの現場で、演技だけでなく映画づくりのプロセス全体に触れる経験を積み、俳優としての意識を深めていきます。
『彌勒 MIROKU』は、モノクロ映像や書割を用いた独特の演出が特徴で、幻想的かつ実験的な作品として評価されています。土村の演技は、静かな語り口の中に繊細な感情を宿し、観る者の記憶に残る存在感を示しました。この作品を通じて、彼女は映画界への本格的な一歩を踏み出すことになります。
所属事務所ヒラタオフィスでの活動開始
土村芳は京都造形芸術大学を卒業後、ヒラタオフィスに所属し、女優としての活動を本格的にスタートさせました。ヒラタオフィスは映画やテレビドラマ、舞台など幅広いジャンルで活躍する俳優が多く所属する芸能事務所であり、土村もその一員として着実にキャリアを積み重ねていきます。
所属後すぐに舞台『母に欲す』への出演が決まり、オーディションを勝ち抜いての参加となりました。この舞台は三浦大輔が作・演出を手がけた作品で、土村にとってはプロの現場での本格的な挑戦となりました。舞台上での緊張感や観客との距離感を肌で感じながら、演技の深さを追求する時間が続いていきます。
その後もテレビドラマや映画への出演が続き、NHK連続テレビ小説『べっぴんさん』ではヒロインの親友役としてレギュラー出演を果たします。この作品では、昭和の時代背景に溶け込む落ち着いた佇まいと、丁寧な演技が視聴者の印象に残り、注目を集めるきっかけとなりました。
民放ドラマや配信作品にも出演の幅を広げ、Netflixの『新聞記者』やカンヌセレクションに選ばれた『本気のしるし』劇場版など、社会性や心理描写を重視した作品にも参加しています。また、映画『去年の冬、きみと別れ』や『空母いぶき』などでは、物語の中核を支える役柄を演じ、映像作品における存在感を確かなものにしています。
ヒラタオフィスでの活動は、地道な努力と誠実な演技を軸に展開されており、派手さよりも作品に寄り添う姿勢が多くの監督や視聴者から支持を集めています。舞台、映画、テレビとジャンルを問わず、役柄に真摯に向き合う姿勢が、現在の安定した活動につながっています。
土村芳の出演作品と役柄の広がり
NHK連続テレビ小説『べっぴんさん』で注目

土村芳が広く知られるきっかけとなったのが、2016年から放送されたNHK連続テレビ小説『べっぴんさん』への出演です。この作品では、ヒロイン・坂東すみれの親友であり、子供服メーカー「キアリス」の創業メンバーのひとり、村田君枝役を演じました。
君枝は生まれつき体が弱く、慎ましくも芯のある女性として描かれています。戦争によって青春時代を奪われながらも、仲間とともに新しい生活を築こうとする姿が印象的で、物語の中では母としての葛藤や仲間との絆が丁寧に描かれています。土村はこの役を通じて、繊細な感情の揺れや、静かな強さを表現し、視聴者の共感を集めました。
撮影現場では、役名で呼び合う習慣が自然と関係性を築き、土村自身も君枝としての感覚を保ちながら演技に臨んでいたとされています。体調の悪化による入院や、働くことへの葛藤など、君枝の人生には多くの試練がありましたが、そうした場面でも土村の演技は感情の奥行きを丁寧に伝え、物語に深みを与えています。
また、夫・昭一との関係性も見どころのひとつで、恋愛結婚という当時では珍しい設定の中で、君枝の内面の変化が描かれています。視聴者の間では「君ちゃん」と親しみを込めて呼ばれ、作品終了後も記憶に残るキャラクターとして語られることが多くあります。
この出演を通じて、土村芳は朝ドラファンの間で確かな存在感を示し、以降の作品でも誠実な演技が注目されるようになりました。
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民放ドラマ『恋がヘタでも生きてます』出演
土村芳は2017年に放送された読売テレビ制作のドラマ『恋がヘタでも生きてます』に出演し、民放連続ドラマへの初挑戦を果たしました。この作品は、恋愛に不器用な大人たちの姿を描いたラブコメディで、原作は藤原晶による同名漫画です。
土村が演じたのは、主人公・茅ヶ崎美沙の親友でルームメイトの榎田千尋という役柄です。千尋は大手証券会社の受付嬢として働く一方で、家庭的な性格を持ち、結婚を夢見る女性として描かれています。大学時代から交際していた恋人との婚約が破綻するという展開の中で、土村は失恋の痛みや再起への葛藤を丁寧に演じ、視聴者の共感を呼びました。
物語の中では、千尋が新たな職場や人間関係に向き合いながら、自分らしい生き方を模索していく様子が描かれています。土村の演技は、感情の起伏を抑えながらも確かな存在感を放ち、等身大の女性像として自然に物語に溶け込んでいました。恋愛や仕事に悩みながらも前を向こうとする姿勢が、作品全体の温度感を支える要素となっています。
この出演を通じて、土村は民放ドラマの現場での経験を積み、演技の幅を広げるきっかけを得ました。朝ドラで培った誠実な演技力が、ラブコメディというジャンルでもしっかりと活かされており、彼女の俳優としての柔軟性が感じられる作品となっています。
カンヌ選出『本気のしるし』劇場版の評価

『本気のしるし』は、2019年に名古屋テレビ制作の深夜ドラマとして放送された作品で、星里もちるの同名漫画を原作としています。放送当初から、予測不能な展開と登場人物の複雑な心理描写が話題となり、既存のドラマ枠を超える完成度が注目されました。
その後、ドラマ版を再編集した劇場版が制作され、2020年にはカンヌ国際映画祭のオフィシャルセレクション「カンヌレーベル」に選出されるという快挙を達成します。地方局制作の深夜ドラマが国際映画祭に選ばれるのは異例であり、作品の持つ力が広く認められた結果といえます。
物語は、退屈な日常を送る会社員・辻一路が、踏切で立ち往生していた葉山浮世を助けたことをきっかけに、彼女の予測不能な行動に巻き込まれていく様子を描いています。土村芳が演じた葉山浮世は、天然で無邪気な一面を持ちながらも、周囲を振り回す危うさを秘めた女性です。彼女の行動は一見すると理解しがたいものですが、その裏には居場所を求める切実な感情があり、土村はその複雑な内面を丁寧に表現しています。
浮世の言動は観る者に強い苛立ちを与えることもありますが、土村の演技には、どこか放っておけないようなひたむきさが滲み出ており、観客の感情を揺さぶる力があります。演じるにあたっては、浮世の行動の裏にある感情の動きを探りながら、役に寄り添う姿勢を大切にしていたことが伝えられています。
劇場版は232分という長尺ながら、緊張感を途切れさせることなく物語を展開し、映像表現や音の使い方にも独自の工夫が凝らされています。土村の演技は、物語の中心にある浮世というキャラクターの不安定さと純粋さを同時に伝えるものであり、作品全体の空気感を支える重要な要素となっています。
Netflix『新聞記者』での役柄と反響
土村芳は2022年に配信されたNetflixオリジナルドラマ『新聞記者』で屋代晴海役を演じました。この作品は、報道の自由や政治の闇をテーマにした社会派ドラマで、実際の事件をモチーフにした緊迫感のあるストーリーが展開されます。全6話構成で、ジャーナリズムの現場と官僚の葛藤を描いた内容は、国内外で大きな反響を呼びました。
屋代晴海は、財務省に勤める職員であり、物語の中では文書改ざん問題に関与する立場として登場します。土村はこの役を通じて、組織の圧力と個人の良心の間で揺れる人物像を静かに、しかし確かな緊張感をもって演じています。感情を表に出すことなく、内面の葛藤を表現する演技は、作品全体の空気を支える存在として印象を残しました。
物語の中で屋代は、上司からの命令に従いながらも、自身の中にある倫理観との間で苦しみ続けます。その姿は、現代社会における組織と個人の関係性を象徴するものとして描かれており、土村の演技はその複雑さを丁寧に伝えています。派手な動きや台詞ではなく、沈黙や視線の動きによって感情を伝える場面が多く、視聴者の記憶に残る演技となりました。
この作品は、Netflixというグローバルな配信プラットフォームを通じて世界中に届けられ、社会的なテーマを扱いながらも高い映像表現と演技力が評価されています。土村芳の屋代晴海役は、物語の中で直接的な主役ではないものの、物語の深度を支える重要な役割を果たしており、静かな存在感が作品全体の緊張感を保つ要素となっています。
『ゆるキャン△』シリーズでの安定感

土村芳は、テレビ東京の実写ドラマ『ゆるキャン△』シリーズにおいて、鳥羽美波役を演じています。鳥羽美波は、本栖高校に赴任してきた歴史教師であり、野外活動サークル「野クル」の顧問を務める人物です。穏やかで面倒見の良い性格ながら、酒好きで“グビ姉”というあだ名を持つユニークなキャラクターとして描かれています。
土村はこの役を通じて、教師としての落ち着いた振る舞いと、プライベートでの奔放な一面を自然体で演じ分けています。生徒たちとの距離感を大切にしながらも、時には泥酔してしまう姿をコミカルに表現することで、作品の緩やかな空気感に溶け込んでいます。シリーズを通して、鳥羽美波の言動には一貫性があり、視聴者に安心感を与える存在として描かれています。
キャンプ場でのシーンでは、妹とともに登場する場面もあり、昼間から酒を楽しむ姿が印象的です。その一方で、冬キャンプの危険性を真剣に伝える場面では、顧問としての責任感をしっかりと示しており、キャラクターの奥行きを感じさせます。生徒たちとのやり取りの中で見せる柔らかな表情や、時折見せる照れた反応も、土村の演技によって自然に表現されています。
実写版『ゆるキャン△』は、原作の雰囲気を大切にしながらも、俳優陣の演技によって独自の魅力が加えられています。土村芳の鳥羽美波役は、シリーズの中で安定した存在感を放ち、作品全体の空気を支える重要な役割を果たしています。
映画『去年の冬、きみと別れ』での演技
土村芳は、2018年公開の映画『去年の冬、きみと別れ』で吉岡亜希子役を演じました。この作品は芥川賞作家・中村文則の同名小説を原作としたサスペンス映画で、記者・耶雲恭介が猟奇殺人事件の真相に迫る過程を描いています。物語の鍵を握る人物として登場する吉岡亜希子は、視力を失った女性であり、焼死事件の被害者でもあります。
亜希子は、主人公・耶雲の元恋人でありながら、事件の核心に深く関わる存在として描かれています。土村はこの役を通じて、盲目という設定にとどまらず、内面に強さを秘めた女性像を繊細に表現しています。登場シーンは限られているものの、物語の始まりを担う重要な役割を果たしており、観客の記憶に残る印象的な演技を見せています。
撮影にあたっては、視覚障害を持つ人物の生活や感覚に寄り添うため、実際に視覚障害者と行動を共にする機会を持ち、役作りに取り組んでいます。その経験を通じて、亜希子の持つ芯の強さや静かな存在感を画面に落とし込むことができました。
物語の構成上、亜希子の存在は伏線として機能し、回想や真相の解明とともにその意味が明らかになっていきます。土村の演技は、語られない部分に説得力を持たせるものであり、観客の想像力を引き出す役割を担っています。静かな場面でも緊張感を保ち、物語の空気を引き締める演技は、サスペンス作品ならではの緻密さが感じられます。
舞台『母に欲す』での挑戦と成長

土村芳は2014年、三浦大輔が作・演出を手がけた舞台『母に欲す』に出演し、舞台女優としての力を示しました。この作品は、母と娘の関係性を軸に、家族の中に潜む感情の歪みや葛藤を描いた重厚な人間ドラマであり、観客に強い印象を残す内容となっています。
土村はオーディションを経てこの舞台に参加し、複雑な感情の揺れを舞台上で表現するという難しい課題に向き合いました。舞台は映像作品とは異なり、観客の目の前で生身の感情を伝える必要があり、瞬間ごとの集中力と身体表現が求められます。土村はその中で、台詞の間や沈黙の使い方、視線の動きなど細部にまで意識を向けながら、役柄に深く入り込んでいきました。
演じた役は、母との関係に悩みながらも自分自身を見つめ直していく若い女性であり、感情の起伏が激しく、繊細な演技が求められるものでした。土村は、怒りや悲しみ、戸惑いといった感情を一つひとつ丁寧に拾い上げ、舞台空間の中でリアルな存在として立ち上げていきます。観客との距離が近い舞台ならではの緊張感の中で、彼女の演技は確かな説得力を持って伝わりました。
この舞台への出演は、土村にとって映像作品とは異なる演技のアプローチを学ぶ機会となり、俳優としての幅を広げる重要な経験となりました。舞台の稽古を通じて、演技に対する姿勢や身体の使い方、感情の扱い方などを深く掘り下げることができ、以降の映像作品においてもその経験が活かされています。
土村芳の歩みと作品から見える演技の深さ
- 岩手県盛岡市で育ち幼少期から表現に親しんだ
- 子ども劇団で舞台経験を積み演技に触れた
- 新体操でインターハイ出場するほどの実力を持つ
- 芸術大学で演技を専門的に学び舞台経験を重ねた
- 映画監督・林海象との出会いが転機となった
- 映画『彌勒 MIROKU』で初主演を果たした
- ヒラタオフィス所属後に幅広いジャンルで活動開始
- NHK朝ドラ『べっぴんさん』で注目を集めた
- 民放ドラマ『恋がヘタでも生きてます』に出演した
- 『本気のしるし』劇場版で国際的評価を受けた
- Netflix『新聞記者』で緊張感ある演技を見せた
- 『ゆるキャン△』シリーズで安定した存在感を示した
- 映画『去年の冬、きみと別れ』で物語の鍵を担った
- 舞台『母に欲す』で感情表現の幅を広げた
- 土村芳は映像と舞台の両面で確かな演技力を築いている
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