漫画家として活動する水谷さるころさんは、初婚で感じた違和感や離婚後の価値観の変化を経て、現在の夫との関係において「事実婚」という形を選びました。
法律婚による改姓の不利益、性別役割の押しつけ、そして制度に縛られない柔軟なパートナーシップへの志向が、その選択の背景にあります。夫婦別姓を維持しながら子育てを行い、家事や育児を協力して担う生活の中で、形式よりも実質を重視する姿勢が貫かれています。
事実婚に伴う法的な課題にも向き合いながら、夫婦関係を定期的に見直し、育てていく姿勢が印象的です。この選択がどのような実生活に結びついているのか、具体的なエピソードとともに見ていきましょう。
【この記事のポイント】
- 水谷さるころさんが法律婚に違和感を抱いた理由
- 改姓による職業的な不利益と事実婚の選択
- 夫婦間の家事・育児の分担とコミュニケーションの工夫
- 事実婚に伴う法的・社会的な課題とその対応方法
水谷さるころと夫の事実婚に至る経緯
初婚で感じた「法律婚」の違和感
水谷さるころさんが30歳で初めて結婚したとき、結婚とは籍を入れることだという認識に疑問を持つことはありませんでした。育った家庭がいわゆる「理想的な家族像」に近く、父が働き母が専業主婦という安定した環境の中で、結婚＝幸せという価値観が自然に根付いていたためです。
しかし実際に法律婚を経験してみると、婚姻届を提出することで社会的な扱いが変わり、周囲から「夫に養ってもらうのが当然」といった前提で接される場面が増えました。仕事の場面では、結婚したことを理由に報酬の交渉で不利な扱いを受けることもあり、個人としての評価が家庭の役割に引き寄せられることに違和感を覚えたといいます。
また、法律婚によって姓が変わることは、漫画家として活動してきた彼女にとって大きな問題でした。これまで築いてきた名前の認知や作品とのつながりが途切れることへの不安があり、改姓による影響は職業的にも無視できないものでした。
結婚生活そのものにも、性別による役割分担の押しつけを感じる場面がありました。「男だから」「女だから」といった前提で家事や育児の負担が偏ることに対して、窮屈さを感じるようになったのです。こうした経験を通じて、制度としての法律婚が自分には合っていないと実感するようになりました。
その後の離婚を経て、結婚という形式よりも、実際に家族として支え合う関係性のほうが大切だと考えるようになり、再婚ではなく事実婚という選択肢に目を向けるきっかけとなりました。
改姓による仕事や評価への影響
水谷さるころさんは、漫画家として長年活動してきた中で、自身の名前が読者や業界関係者にとって重要なアイデンティティであることを強く意識してきました。作品のクレジットや署名、SNSでの発信など、名前は活動のすべてに関わっており、それが変わることは、これまで積み重ねてきた信頼や実績が一度リセットされるような感覚につながります。
初婚の際には、戸籍上の姓を夫のものに変えることになりましたが、仕事上は旧姓を使い続ける選択をしました。しかし、役所や銀行、保険などの公的な手続きでは新しい姓を使わざるを得ず、場面によって名前が異なることに煩雑さを感じるようになりました。特に、契約書や請求書などの書類で本名とペンネームの整合性を求められる場面では、説明や証明が必要になることもあり、精神的な負担が積み重なっていきました。
また、女性が結婚によって姓を変えることが当然とされる風潮にも違和感を抱くようになりました。自分の名前を守るために努力しなければならない状況は、職業人としてだけでなく、一人の人間としても不公平に感じられたのです。
こうした経験を通じて、再び結婚という形を選ぶ際には、改姓の必要がない事実婚という選択肢が現実的であると考えるようになりました。名前を変えずに活動を続けられることは、仕事の継続性だけでなく、自分らしさを保つうえでも大きな意味を持っています。
離婚後に見直したパートナーシップ観
水谷さるころさんは、30歳で結婚し、約3年半の婚姻生活を経て離婚を経験しました。結婚当初は「結婚さえできれば安心できる」と考えていたものの、実際の生活では、夫婦間の役割や価値観の違いに悩み、次第に関係がすれ違っていったといいます。離婚は大きな転機となり、夫婦という関係性について根本から考え直すきっかけになりました。
離婚後は、形式的な結婚制度よりも、日々の生活の中で築かれる信頼や協力のほうが重要だと感じるようになりました。籍を入れることが関係の証明になるわけではなく、互いに「一緒にいたい」と思えるかどうかが、関係の継続にとって本質的な要素だと考えるようになったのです。
その後、現在のパートナーと出会い、再婚ではなく事実婚という形を選びました。お互いに離婚経験があり、過去の結婚生活で感じた不自由さや制度への違和感を共有していたことも、事実婚という選択に自然につながりました。形式に縛られず、必要なときに話し合い、関係性を更新していく柔軟さが、今の生活に合っていると感じているようです。
また、事実婚を選んだことで、夫婦間の役割分担や家事・育児の協力体制についても、より対等な関係を築くことができています。過去の経験を踏まえ、「こうあるべき」という固定観念にとらわれず、実際の生活に即したパートナーシップを模索する姿勢が、現在の家庭の安定につながっています。
夫との出会いと再婚ではなく事実婚を選んだ背景
水谷さるころさんが現在の夫と出会ったのは、互いに離婚を経験した後のことでした。夫は映像ディレクターとして活動しており、前妻との間に子どもが2人います。水谷さん自身も離婚を経て、結婚制度に対する考え方が大きく変化していた時期でした。
初婚では、結婚という形式に安心感を求めていたものの、実際には制度に縛られることで自由が制限される感覚が強く、結果的に離婚に至りました。その経験から、再び法律婚を選ぶことには慎重にならざるを得ませんでした。
現在の夫との関係は、形式よりも実質を重視する姿勢が共通していたことが大きな支えになっています。互いに過去の結婚生活で感じた不自由さや、姓の変更による不利益、社会的な役割の押しつけなどを共有していたため、事実婚という選択が自然な流れとなりました。
また、夫婦別姓を維持したいという思いも、事実婚を選ぶ理由のひとつでした。水谷さんは漫画家として活動しており、名前の継続性が仕事に直結するため、改姓による影響を避けたいという意識が強くありました。夫もその点を理解し、形式にこだわらず、実際の生活に即した関係性を築くことを選びました。
事実婚という形をとることで、互いの価値観を尊重しながら、柔軟に生活を組み立てることが可能になりました。籍を入れることよりも、日々の協力や信頼の積み重ねを大切にする姿勢が、現在の夫婦関係の土台となっています。
子どもを迎えるにあたっての選択
水谷さるころさんは、事実婚という形を選んだまま、夫との間に子どもを迎えています。法律婚ではないことに対して不安を抱く声もありますが、実際の生活では、親としての責任や協力体制は十分に機能しており、家庭としての安定は保たれています。
出産は帝王切開で行われ、産後は体力的にも精神的にも大きな負担がありました。夫はその状況を理解し、育児や家事に積極的に関わる姿勢を見せており、ふたりで親になるという意識が強く共有されています。育児は「ツーオペ」を基本とし、どちらか一方に負担が偏らないように工夫されています。
事実婚であることによって、行政手続きや戸籍上の扱いにおいて多少の不便はあるものの、子どもとの関係性や育児の質には影響はありません。住民票の続柄が「未届の妻」「未届の夫」と記載されることや、子どもの戸籍が母親側になることなど、制度上の違いはありますが、日常生活において大きな支障は感じられていないようです。
また、夫婦別姓を維持したままでも、子どもに対する愛情や責任は変わらず、形式にとらわれない家族のあり方が実現されています。夫婦としての関係性が安定していれば、子どもにとっても安心できる環境が整うという考え方が、事実婚での育児を支える土台となっています。
夫婦別姓と事実婚の実務的な課題
水谷さるころさんが事実婚を選んだ理由のひとつに、夫婦別姓を維持したいという強い意志があります。日本の法律では、婚姻届を提出すると夫婦は同じ姓を名乗る必要があり、別姓を希望する場合は法律婚ではなく事実婚を選ぶしかありません。
事実婚を選ぶことで、姓を変えずに活動を続けることができますが、その一方で行政手続きにおいて不便が生じる場面もあります。たとえば、住民票には「未届の妻」「未届の夫」と記載され、法的な配偶者としての扱いにはなりません。これにより、病院での同意手続きや保険の申請、住宅ローンの契約などで、関係性を証明するために追加の書類や説明が必要になることがあります。
子どもが生まれた場合、戸籍上は母親の単独親権となり、父親との法的な親子関係を成立させるには認知の手続きが必要です。この手続き自体は難しいものではありませんが、法律婚であれば自動的に父親の戸籍に入るところを、事実婚では別途対応が求められます。
また、相続や税制上の優遇措置など、法律婚であれば配偶者として認められる権利が、事実婚では適用されない場合があります。そのため、将来的な備えとして、遺言書の作成や契約書による関係性の明示など、法的な補完が必要になることもあります。
こうした実務的な課題に対して、水谷さんは夫と協力しながら、必要な手続きを一つずつ丁寧に進めています。形式にとらわれず、実質的な信頼関係を重視する姿勢を貫きながらも、制度との折り合いをつける工夫が日常の中で積み重ねられています。
周囲の反応と家族の理解
水谷さるころさんが事実婚を選んだ際、周囲の反応は一様ではありませんでした。特に親世代との間では、結婚＝婚姻届を出すものという価値観が根強く、事実婚という形に対して戸惑いや不安の声があったといいます。籍を入れないことに対して「本当に夫婦なのか」「子どもに影響はないのか」といった疑問が寄せられることもありました。
こうした反応に対して、水谷さんは一つひとつ丁寧に説明を重ねました。事実婚でも生活は安定しており、夫婦としての協力体制も整っていること、子どもに対しても責任を持って育てていることなど、実際の生活の様子を具体的に伝えることで、少しずつ理解を得ていきました。
また、夫婦別姓を維持する理由や、法律婚による不利益についても率直に話すことで、形式にこだわらない選択が本人たちにとって自然であることを伝えました。家族との関係性においては、時間をかけて信頼を築く姿勢が大切であり、実際に安定した家庭を築いている様子が周囲の安心につながっています。
職場や友人関係においても、事実婚という言葉に対して最初は驚きや誤解があったものの、日常の中で夫婦としての姿を見せることで、形式よりも実質を重視する考え方が受け入れられるようになりました。特に育児や家事を協力して行う姿勢は、周囲からも好意的に受け止められています。
事実婚という選択は、まだ一般的とは言えない部分もありますが、実際の生活が安定していれば、周囲の理解は少しずつ広がっていくものです。水谷さんの家庭では、形式にとらわれず、信頼と協力を軸にした関係性が、家族や周囲との関係にも良い影響を与えています。
法律婚にこだわらない理由の整理
水谷さるころさんが事実婚を選んだ背景には、制度よりも実質を重視する姿勢があります。婚姻届を提出することで得られる法的な枠組みよりも、日々の生活の中で築かれる信頼や協力のほうが、夫婦関係において本質的だと考えています。
法律婚では、婚姻届を出すことで社会的には「夫婦」として認められますが、その形式が関係性の深さや安定を保証するわけではありません。むしろ、籍を入れたことで安心してしまい、互いに向き合う努力が薄れてしまうことへの懸念がありました。形式に頼ることで、関係性のメンテナンスが疎かになる可能性があると感じたのです。
また、法律婚には「夫が大黒柱」「妻は家庭を守る」といった保守的な家族観が根強く残っている場面もあり、そうした価値観が無意識に押しつけられることへの違和感もありました。事実婚を選ぶことで、そうした枠組みから自由になり、互いに自立した関係性を築くことが可能になります。
水谷さんの家庭では、夫婦それぞれが自分の役割を柔軟に担いながら、必要なときに話し合い、関係性を更新していく姿勢が大切にされています。形式に頼らず、実際の生活の中で「一緒にいたいからいる」という気持ちを確認し合うことが、夫婦としての絆を深める方法だと考えられています。
このように、法律婚にこだわらない理由は、制度的な安心よりも、実際の信頼関係や協力体制を重視する価値観に基づいています。事実婚という選択は、形式に縛られず、夫婦としての本質を見つめ直すための手段となっています。
水谷さるころと夫の事実婚生活の実際
家事と育児の分担における工夫
水谷さるころさんの家庭では、家事や育児の分担において「固定しない」「押しつけない」ことが基本方針となっています。夫婦それぞれが得意なことやこだわりのある分野を自然に担当し、状況に応じて柔軟に役割を調整することで、無理なく協力できる体制が築かれています。
料理は夫が担当することが多く、掃除や洗濯は水谷さんが担うことが多いようです。ただし、これはあくまで「得意だから」「好きだから」という理由に基づいた分担であり、体調や仕事の繁忙期には互いに補い合う姿勢が徹底されています。たとえば、水谷さんが締め切り前で忙しいときには、夫が家事や育児を多めに引き受けるなど、状況に応じた調整が自然に行われています。
育児に関しても、「母親がやるべき」「父親は手伝い」という考え方は取られていません。夫婦ともに「ふたりで親になる」という意識を持ち、子どもの世話や教育に対して対等に関わるよう努めています。子どもが小さい頃は、夜泣きや体調不良などで睡眠が分断されることもありましたが、交代制で対応することで負担を分散させてきました。
また、夫婦間で「こうしてほしい」「これは苦手」といった気持ちを率直に伝え合うことも重視されています。感情的にならず、具体的な要望として共有することで、衝突を避けながら改善を重ねていく姿勢が取られています。このような話し合いの積み重ねが、家事育児の分担だけでなく、夫婦関係そのものの安定にもつながっています。
水谷さんの家庭では、家事育児の分担を「フェアにシェアする」ことが目標ではなく、実際の生活に即した「納得できる分担」を目指しています。そのためには、日々の調整と対話が欠かせず、形式的なルールよりも、互いの気持ちと状況に寄り添う柔軟さが大切にされています。
夫婦間のコミュニケーションの取り方
水谷さるころさんの家庭では、夫婦間のコミュニケーションを日常的な習慣として大切にしています。特別な場を設けるというよりも、日々の生活の中でこまめに感情や考えを言葉にすることが、関係の安定につながっています。
夫が不機嫌になったり、感情的な反応を示すことがあった際には、放置せずにすぐ話し合いの場を持つようにしています。その際、責めるのではなく「自分はこう感じた」と伝えることで、相手の防衛的な反応を避け、冷静に状況を整理することができています。こうした「アイメッセージ」を使った対話は、感情のすれ違いを防ぐための有効な手段となっています。
また、夫婦でカウンセリングを受けた経験もあり、第三者の視点を取り入れることで、互いの態度や言葉の選び方を見直す機会が得られました。夫が感情的になりやすい傾向があったことから、カウンセリングを通じて自分の気持ちを整理する方法や、怒りの感情をコントロールする技術を学び、実生活に活かしています。
日々の会話では、育児や家事の分担だけでなく、仕事の進捗や体調、気分なども共有するようにしています。小さなことでも言葉にすることで、相手の状況を理解しやすくなり、無用な誤解や衝突を防ぐことができます。
夫婦関係は、時間とともに変化するものです。水谷さんの家庭では、コミュニケーションを「メンテナンス」と捉え、定期的に話し合いを重ねることで、関係性を更新し続けています。形式に頼らず、実際の対話を重ねることで、事実婚という選択を支える土台が築かれています。
「ツーオペ育児」の実践と課題
水谷さるころさんの家庭では、育児を夫婦ふたりで協力して行う「ツーオペ育児」が基本方針とされています。どちらか一方に負担が偏ることのないよう、家事や育児の役割は固定せず、状況に応じて柔軟に分担されています。
育児においては、夫婦で20のルールを設けており、「得意な方が担当する」「こだわりのある方がやる」など、実務的な分担を明確にすることで、無用な衝突を避ける工夫がなされています。また、「察してほしい」という期待を避け、必要なことは言葉にして伝えるという姿勢も徹底されています。こうしたルールは、日々の生活の中で少しずつ調整され、夫婦の信頼関係を支える基盤となっています。
ただし、ツーオペ育児には課題もあります。共働きである以上、仕事との両立は常に大きなテーマです。特に子どもが乳幼児期の頃は、夜間の授乳や体調不良への対応などで睡眠が分断され、体力的な限界を感じる場面も少なくありません。そうしたときには、どちらかが無理をしすぎないよう、定期的に話し合いを行い、分担の見直しを図っています。
また、育児の中で「自分の時間がない」と感じることもあります。水谷さんの家庭では、母親も週に一度は夜に外出する時間を確保するなど、リフレッシュの機会を意識的に設けています。これは、育児における精神的な余裕を保つための大切な工夫です。
ツーオペ育児は、単に作業を分け合うことではなく、互いの状況や気持ちを尊重しながら、継続的に調整していくプロセスです。水谷さんの家庭では、育児を「ふたりで親になる」ための共同作業と捉え、制度や形式にとらわれず、実際の生活に即した方法で取り組んでいます。
夫の前婚との関係と子どもたちへの配慮
水谷さるころさんの夫には前婚の経験があり、前の家庭には2人の子どもがいます。現在の家庭では、その子どもたちとの関係を大切にしながら、新たな家族としての絆を築く努力が続けられています。
夫は前婚の子どもたちと成人後も連絡を取り合っており、現在の家庭においてもそのつながりを尊重しています。水谷さん自身も、夫の過去を否定するのではなく、そこから生まれた経験や価値観を理解しようとする姿勢を持っています。夫婦間では、前婚の子どもたちがどのように父親を見ていたかを話し合うこともあり、過去の関係性を振り返ることで、現在の育児や家族づくりに活かされています。
たとえば、夫が息子には厳しく接していた一方で、娘には比較的穏やかだったというエピソードがありました。こうした違いを知ることで、夫自身が自分の感情の扱い方や接し方を見直すきっかけとなり、現在の家庭ではより公平で穏やかな関係性を築くよう意識されています。
また、夫婦でカウンセリングを受ける中で、前婚の経験が現在の夫婦関係や育児にどう影響しているかを客観的に見つめ直す機会もありました。夫が感情をうまく表現できなかった背景には、社会的な男性像や育ち方の影響があることも理解され、単なる性格の問題としてではなく、環境や文化の中で形成された傾向として受け止められています。
現在の家庭では、前婚の子どもたちとの関係を切り離すのではなく、必要に応じて交流を続けながら、新たな家族としての安心感や信頼を築いています。水谷さんと夫は、過去を含めたすべての経験を尊重しながら、今の家族の形を丁寧に育てているのです。
事実婚における法的・社会的な不便さ
事実婚は、法律婚と異なり婚姻届を提出しないため、法的には「配偶者」としての地位が認められない場面があります。日常生活においては夫婦として問題なく暮らせる一方で、制度上の扱いに差が出ることがあり、注意が必要です。
たとえば、病院での手続きでは、法律婚であれば当然に認められる「家族」としての立場が、事実婚では確認を求められることがあります。手術の同意や病状説明など、緊急時に配偶者としての判断が求められる場面で、関係性を証明する書類の提出を求められることもあります。
また、相続に関しても、事実婚のパートナーには法定相続権がありません。遺言書を作成しておかないと、万が一の際に財産を受け取ることができない可能性があります。これは、長年連れ添っていても、法律上は「他人」として扱われるためです。生活の実態がどれほど夫婦に近くても、制度上の壁は依然として存在しています。
社会保険や税制面でも、配偶者控除や扶養の適用など、法律婚であれば自動的に受けられる制度が、事実婚では対象外となることがあります。勤務先によっては、事実婚のパートナーを「配偶者」として認めないケースもあり、福利厚生の面で不利になることもあります。
子どもがいる場合には、親権や戸籍の扱いにも違いが出ます。母親が出産した場合、子どもは母の戸籍に入り、父親との法的な親子関係を成立させるには認知の手続きが必要です。この手続きがなければ、父親としての権利や義務が認められないため、早めの対応が求められます。
こうした不便さに対しては、事前に必要な書類を整えたり、遺言や契約書を活用したりすることで、ある程度の備えが可能です。制度の枠組みを理解したうえで、実生活に即した対応を取ることが、事実婚を選ぶうえでの現実的な工夫となっています。
夫婦関係のアップデートとPDCA的思考
水谷さるころさんの家庭では、夫婦関係を「固定されたもの」として捉えず、日々の生活の中で見直しと改善を繰り返す姿勢が大切にされています。これは、仕事で使われるPDCAサイクル（Plan＝計画、Do＝実行、Check＝評価、Action＝改善）を家庭にも応用した考え方で、夫婦関係をより良く保つための実践的な工夫です。
たとえば、家事や育児の分担については、最初にルールを決めて運用しながら、実際の生活の中で不具合があれば見直すという流れが定着しています。「このやり方はうまくいっているか」「負担が偏っていないか」といった点を定期的に確認し、必要に応じて分担を変更することで、無理なく協力できる体制が維持されています。
また、夫婦間のコミュニケーションについても、感情のすれ違いや誤解が生じた際には、すぐに話し合いの場を設けるようにしています。その際、感情的にならず、具体的な事実や気持ちを整理して伝えることで、冷静に問題を共有し、改善策を見つけることが可能になります。
水谷さんと夫は、離婚経験があることから「どうすれば関係が壊れるか」を理解しており、それを踏まえて「どうすれば関係を維持できるか」を意識的に考えるようになりました。その結果、夫婦関係を「放置せず、育てるもの」として捉え、定期的なメンテナンスを行うことが習慣化されています。
このようなPDCA的な思考は、夫婦関係だけでなく、育児や家族全体の運営にも応用されています。たとえば、子どもとの接し方や教育方針についても、実際の反応を見ながら調整を加えることで、家庭内のストレスを減らし、安心できる環境を整えています。
夫婦関係は、年月とともに変化するものです。水谷さんの家庭では、その変化を前向きに受け止め、柔軟に対応することで、事実婚という選択を支える安定した関係性が築かれています。
仕事と家庭の両立における夫の理解
水谷さるころさんの家庭では、仕事と家庭の両立を実現するために、夫の理解と協力が欠かせない要素となっています。共働きであることを前提に、家事や育児を「どちらかがやるもの」ではなく「ふたりで担うもの」として捉え、日々の生活を支え合う体制が築かれています。
夫は映像ディレクターとして活動しており、仕事の繁忙期には時間の融通が利きにくいこともありますが、それでも家庭内での役割を放棄することなく、できる範囲で積極的に関与しています。料理は夫が担当することが多く、掃除や洗濯は水谷さんが担うなど、得意分野に応じた分担が自然に定着しています。
育児においても、夫は「手伝う」立場ではなく「親として関わる」姿勢を持っており、夜間の対応や保育園の送り迎えなども積極的に行っています。水谷さんが仕事に集中できる時間を確保するために、夫が子どもの世話を引き受ける場面も多く、互いのスケジュールを調整しながら協力する体制が整えられています。
また、夫婦間では「察してほしい」という期待を避け、必要なことは言葉にして伝えるというルールが共有されています。これにより、感情的なすれ違いや誤解を防ぎ、仕事と家庭の両立に必要な調整がスムーズに行えるようになっています。
水谷さんは、初婚の経験から「自分だけが頑張る」ことの限界を痛感しており、現在の家庭では「ふたりで乗り越える」ことを重視しています。夫がその価値観を共有し、実際の行動で支えてくれることで、安心して仕事に取り組める環境が整っているのです。
事実婚を選んだことで得られた安心感
水谷さるころさんが事実婚を選んだ背景には、形式に縛られず、実質的な信頼関係を重視したいという思いがあります。婚姻届を提出することで得られる法的な枠組みよりも、「一緒にいたいからいる」という気持ちを大切にすることで、精神的な安定が得られると考えています。
事実婚では、夫婦としての関係性を自分たちで定義し、必要なルールや分担を話し合いながら決めていくことができます。水谷さんの家庭では、家事や育児の分担、コミュニケーションの取り方など、生活のあらゆる場面で「こうしたい」「こうしてほしい」という意思を率直に伝え合うことが習慣化されています。形式に頼らず、実際の行動で関係性を築いていくことで、互いへの信頼が深まっています。
また、事実婚を選んだことで、改姓の必要がなくなり、仕事上の名前をそのまま使い続けることができています。これは、漫画家として活動する水谷さんにとって大きな安心材料であり、職業的なアイデンティティを守ることにもつながっています。姓が変わることで生じる手続きの煩雑さや、社会的な扱いの変化からも解放され、自由な立場で仕事に取り組める環境が整っています。
夫との関係においても、事実婚という選択が「結婚したからこうあるべき」という固定観念から距離を置くことを可能にしています。互いに離婚経験があることから、制度に頼らず、日々の生活の中で関係性を育てていくことの重要性を理解しており、形式にとらわれないことで、より柔軟で穏やかな関係が築かれています。
このように、事実婚を選んだことで、精神的な安心感と生活の自由度が高まり、夫婦としての絆がより深く、実感を伴ったものになっています。
水谷さるころと夫が築く事実婚の実像と関係性の要点
- 初婚で法律婚に違和感を抱いた経験がある
- 改姓による仕事上の不利益を避けたかった
- 離婚後に制度より信頼を重視する考えに変化
- 夫との再婚ではなく事実婚を自然に選択した
- 子どもを迎える環境として事実婚を選んだ
- 夫婦別姓を維持するため事実婚を選択した
- 行政手続きで不便があるが工夫で対応している
- 親世代との価値観の違いを丁寧に説明している
- 法律婚に頼らず関係性を育てる姿勢を持っている
- 家事育児は得意分野に応じて柔軟に分担している
- 感情や考えを日常的に共有する習慣がある
- ツーオペ育児を実践し定期的に見直している
- 夫の前婚の子どもとの関係も尊重している
- 法的な権利制限には事前の備えで対応している
- PDCA的思考で夫婦関係を継続的に改善している
- 夫の理解と協力で仕事と家庭の両立が可能になった
- 事実婚により自由で安定した関係性が築かれている
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